中南米のコミュニティラジオを巡る旅(2)


ラ・ボラドーラ

連載「中南米のコミュニティラジオを巡る旅」の第2回”メキシコには表現の自由はない”をお届けします。

「2年前に密告によって死の危険を感じたことがあります」
メキシコのコミュニティラジオ「ラ・ボラドーラ」代表のベロニカは表情を変えず当たり前のように語った。

世界コミュニティラジオ放送連盟(AMARC)のメンバーになって、世界のコミュニティラジオの中には命がけで表現の自由を守っている仲間達がいることは、セミナーでの報告やメーリングリストで知っていたが、殺害の危険にあった人に会ったのは始めてのことだった。

火山

「ラ・ボラドーラ」はメキシコシティからバスで一時間半ほどのアメカメカ町にある。アメカメカ町の住民のほとんどはメスチーソで、先住民の言葉は二、三代前に消失をしてしまったという。この町を見守るようにして後方にそびえる大きな山があり、10年近く前にこの山の活動が活発化し、山が噴火する危機感を持った住民達が「ラ・ボラドーラ」を立ち上げたのだ。最初は政府の許可なく放送をしていたが、実際は災害に備えるために地元の行政も警察も放送に参加していた
そうだ(なんかFMわぃわぃとそっくり!)。そして2005年にAMARCメキシコのサポートで他の11のコミュニティラジオと一緒に政府の許可を得て、今に至っている。

メキシコシティから乗ったバスを降りると、AMARC世界大会(2006年11月)で会ったダニエルがベンチに座っていた。彼は昨年まで「ラ・ボラドーラ」の代表を務めていたが、昨年、大きな交通事故に会い、それを機に代表を降りた。彼は元々この町の住民ではなく、AMARCメキシコのスタッフとして「ラ・ボラドーラ」の立ち上げ支援のために10年前にこの町に移り住み、地元の人達にコミュニティラジオのノウハウすべてを伝えてきたのだ。
ダニエルは会議のために今からメキシコシティに向かうため、私の顔だけ見に来てくれたのだ。松葉杖をつきながらバスに乗る彼を見送った後に、しばらくしてベロニカ、エスペレンサ、ロシオの三人が車で迎えに来てくれた。

5分ほどで「ラ・ボラドーラ」に着いて、スタジオや事務所を一通り見学させてもらった後に、インタビューに入った。

「政府はコミュニティラジオを可視化したくないと考えている」
「いつも政府に没収される危険を持って活動している」
「政府はメディアを警戒し、弾圧している」
「メキシコには表現の自由はない」

コミュニティの人々が支え、参加している、ごく普通のコミュニティラジオ局のスタッフ(それもボランティア)からこんな言葉が相次いで飛び出してくるのだ。

今回の調査に先立ち、インターネット新聞JANJANで読んだ「メキシコではこの7年間に35人のジャーナリストが殺され、6人が行方不明となっている。侮辱や攻撃を受けたとして2007年中に告訴したジャーナリストは84人に上る」(IPSジャパン2008年1月14日配信)という記事を思い返し、頭を切り替えた。

「ここはメキシコなんだ」と。

(つづく)
(文責:日比野純一)

なお、この調査は平成19年度科学研究費補助金(研究種目名 基盤研究(B))「非営利民間放送の持続可能な制度と社会的認知 コミュニティ放送のモデルを探る」を活用しました。