[動画] G8レポート4 「G8は金持ちクラブでいいのか?」(オックスファム 山田太雲)


今日6月6日は3日間のサミットの初日ということになっていますが、実際には各国首脳は夕方にハイリゲンダムに到着、会場となっているホテルの前でそれぞれのパートナーと合わせて16人の写真を撮り、夕食を食べて終わりです。一方、これまでの準備期間に交渉を続けてきた政府代表(「シェルパ」)は、今夜、徹夜で交渉を続けることになっています。通常、サミットは意見が大きく割れることはなく、首脳が着く頃にはすべての決着はついており、それぞれの議題について一日強の間に話をつけ、採択文書を発表しておしまいになります。それが割れたままであるということは、1日でアフリカ、気候変動などの大きな問題について合意に辿り着くことなんて、可能なのか?そんな形の合意で、本当に実質的な解決策が出てくるのか、疑問に思ってしまいます。


各国の意見が割れているのは、私たちオックスファムにとって重要な、「アフリカ」と「気候変動」についてです。

「アフリカ」という議題について、G8は2年前、途上国への開発援助を2010年までに500億ドル追加すること、そのうち250億ドルはアフリカに振り分けることを約束しました。このお金は、オックスファムが世界各地の途上国で推進しているように途上国の経済・社会政策の改革の財源となるもので、現在不足している425万人の保健医療従事者を確保し(スタッフがいなければ診療所も薬も役に立ちません)、すべての子どもたちが学校に通えるようになるための資金にすることができるお金です。

オックスファムが砂浜で行った「スタント」=メディア向けパフォーマンス。

しかし、この約束が2010年までに守られるには、現在のG8諸国の援助額はまったく不十分で、援助を減らしている国すらあります。今回のサミットで、各国首脳がもう一度この目標の存在を認識し、それを守るために大変な努力をする意思を示す必要があります。にもかかわらず、イタリアとカナダが目標の再確認すら拒否し、日本も達成のための強い意志を示す文言に難色を示しているのこと。

気候変動は、すでに各地で貧しい人々の生活に大きな影響を及ぼしています。昨年私が訪れたケニア東北部では、これまで50年に一度起きていたような旱魃が 5年に1度のペースで起きているために、家畜を失ってしまい、大変な飢えに直面していました。バングラデシュでも洪水の頻発かが貧困層の暮らしを圧迫しています。すでに温暖化ガスが大気中に出ているため、これらの人々はこれまでの生活スタイルを諦めて、気候変動の影響に負けない暮らしをしなければなりません。これを行うには莫大なお金がかかり、オックスファムの試算では年に500億ドルが必要となります。しかも、温暖化ガスの大幅削減にすぐに取り掛からなければ、この数字はさらに大きくなります。オックスファムは、気候変動の問題はその原因を作ってきた先進国が責任をもって排出量を削減し、また途上国の「適応」にかかる資金を、貧困削減に必要な「援助」資金の流用で行うのではなく、別の財源から「補償」として提供すべきであるとしています。

これについては、アメリカが全ての国が参加する国連の交渉枠組を拒否して少数国による解決策を提案しているために、まったく合意ができずにいます。日本はアメリカに対し、すでにある最善の枠組み支持を呼びかけるということはしていないようです。
アフリカについても気候についても日本が煮え切らない態度をとっているのは、来年自らが議長を務めるサミットのために「おあずけ」をとっておきたいからでしょうか?しかし2つとも緊急性を要する問題であり、できるだけ早いうちに解決策の土台作りに合意をし、来年のサミットではより具体的なことが議論されるように、努力すべきではないでしょうか?

サミット会場の近くに設置されているメディアセンター(各国の記者が詰めて情報を発信するところ)では、多くの記者がNGOの意見を聞きに動き回っています。BBCの記者は、気候変動の貧困層に与える問題などを非常によく勉強しており、オックスファムのスタッフにも厳しい質問をしていました。一方日本の記者は、まずこういった課題に関心を示さず、北朝鮮の問題を追いかけているようです。NGOについては、私のようなスタッフの人物像を追う記事は書こうとしますが(私もその取材を受けました)、最も重要な議論の中身については、その重要性を認識してもらえていないようです。

そうは言いながらも、今日は日本のNGOの連合体「2008年G8サミットNGOフォーラム」の記者会見を行いました。来年のサミットが日本であることから、記者の関心度も例年よりは高めでした。真剣に質問をしてくる記者もいます。何とかこれを来年までに、中身について議論することが定着した形になるよう、働きかけていきたいと思います。

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それにしても、G8という場所の「高慢さ」には、閉口します。昨日は記者向けに「レセプション」が開かれたのですが、中庭でおいしい料理がシャンペンと共に振舞われ、サーカスのようなショーが展開され、食事や飲み物を運んでくるスタッフは、体の線があらわになる制服を着せられた飛びっきりの美人ばかり。一方で上空を見上げると、外で抗議をするデモ隊を見張るヘリコプターが旋回中。

オックスファムが砂浜で行った「スタント」=メディア向けパフォーマンス。

この10年近く、G8は、「金持ちクラブ」という批判を退けるために、国際課題を積極的に議題にしてきました。良くも悪くも世界中の人々の暮らしに影響を及ぼす国の集まりだからこそ、先進国が一致団結して地球規模の課題に取り組む。そういう姿勢を本気で見せることが、正統性を維持する唯一の道でしょう。しかし、レセプションの様子を見る限りでは、どこまで本当なのか、まったく疑わしくなります。G8が約束を果たさないがために医者にもかかれない女性たち、農作物を売れなくなり貧困に突き落とされる農家の人たちの現実とのあまりのギャップに、自分がこの場にいることをどう理解すればいいのか、考え込んでしまいます。前例好きな日本政府は来年のサミットで、これに倣ったり競い合うようなサミット運営をしないでほしいと思います。

明日、日本の新聞記者の方がケニアから来たオックスファムのスタッフにインタビューすることになりました。「金持ちクラブ」の中で地位を得ることが、日本の関心ごとであることが多いですが、彼らが世界の厳しい視線にハッとするような言葉が伝わることを願っています。

なお、下のサイトでは、私自身を含む各国のオックスファムのスタッフが、G8に対して求めることをそれぞれの母国語で語る動画がご覧いただけます。ぜひ訪れてみてください。

http://oxfaminternational.wordpress.com/