今回の取材先はレストランではなく地域の多種多様な国からやってきた人々の毎日の食卓に不可欠な調味料・食材・野菜、いろんなものが揃う食材店の店主グェン・ティ・ホン・クッウさんにお話を聞いた。
彼女はファンティエット市の離小島のPHU QUY島生まれ育ち。思いも寄らない日本、神戸、長田での生活は、ボートピープルとして長田で成長した夫ゴー・バオ・ツアンさんが、94年8月同じ故郷の親戚訪問の時に出会い、恋に落ちたことから始まる。
日本に来てどうだった?の問いに彼女は「最初残念だった」と答えた。若い情熱のままベトナムで結婚、見たことも聞いたこともない日本語の国長田に1998年にやってきた時の彼女の気持ちは、「残念」の言葉が一番しっくりくるのかもしれない。
来てすぐに靴の会社での*「せいひん」の仕事。朝から夕方まで会社で、そして家に帰ればまた靴の内職。しかしそれは全ての周りのベトナム人の姿だったそうだ。「みんなそうよ。本当に頑張ってた。会社で仕事して家で内職して寝る時間2時間や3時間。給料は20万くらい。いっぱい引かれてた、でも貯金・貯金」来日3年で妊娠して会社は辞めたけど、内職はずっと続けた。
その頑張りで二人は現在の食材店の隣に2004年リサイクルの店を立ち上げる。そのリサイクル用品をベトナムへ輸出することがきっかけで、夫の弟ゴー・バォ・ヴィーさんが食材輸入のオーナーとなり、子育てが落ち着いたグェン・ティ・ホン・クッウさんが店長となって現在の2階建ての店を2017年に手に入れた。
寝る間を惜しんでの靴の仕事、子育て家事に追われ、日本語学校にも行けず日本語が不得意なクッウさん。夫のツアンさんや義理の弟のヴィーさんは、ボートピープルとして1982年から長田に住み仕事をする中で日本語を手に入れた。夫のリサイクルの仕事を手伝う23歳の長男はもちろん、高校1年の次男は日本の小学校、中学校、高校だから日本語の方が得意。家の中ではお母さんのクッウさんだけがベトナム語で会話する。
「友達はいる?寂しくはない?」と聞くと親戚、縁者がたくさんいる長田、ベトナム人との付き合いがたくさんある。「子どもの学校のこと病院のことも助けてくれる人がたくさんいるから大丈夫」と笑う。
ふと見回すと店にはベトナム人に向けたいろんな地域のお知らせのポスターが貼ってあった。これは誰が持ってくるのかと尋ねると意外な答えが返ってきた。「これは近所のおばあちゃんが持ってくる」のだと。なんとなんとそのおばあちゃんはもちろん日本人で、最初のクッウさんとの会話は「あんた何人?」というものだったそうだ。そこから店のこと、夫婦仲は大丈夫か?景気はどうか?店は繁盛しているか?と毎日のように顔出しをし、ベトナム人向けの地域情報のポスターがあると持ってくるようになったのだとか。
「おばあちゃん、とても親切」とクッウさんの顔がほころんだ。そうか。。。こういうことが起こるまち、こういう他人のことが気になるおばちゃんおばあちゃんのいるまちこそは、豊かさにあふれるまち!なんだと実感した。
店の左側の大きな冷蔵庫には野菜や果物、肉製品が溢れている。
それらの食べ方は日本と少し違う。桃は青いまま、まだまだ硬い桃に塩を振って齧るそうだ。ベトナムハムも野菜も多種多様に揃っている。
これらの野菜たちは日本人の農家さんと結婚したベトナム女性のFacebookで見つけて発注するそうだ。そしてその中にはなんと農作物の生産販売会社を立ち上げているベトナム人もタイ人もそして日本人もいるとのこと。それだけいろんな食材が日本の中で必要とされているということの証明だ。
この国はすでに多様な食材の販売ルートができており、それらは商売として成り立ち、日本の経済の一翼を担っていることをしみじみと知った。そしてもう一つ岡山からたくさんの外国人従業員を雇う会社社長が2ヶ月に一度、この店に従業員を連れてきて、一人1万円分好きなものを買うというご褒美旅行をしているそうだ。食べることは生きること、そして人を笑顔にする。そんな笑顔が広がっていく長田を誇らしく思う。
そして「あんた何人?」「あんたどっから来たん?」という言葉が気軽に掛け合えることこそ、このまちの真骨頂だと納得した。【執筆者:金千秋】
*用語説明「せいひん(製品)」:ケミカルシューズ業界の仕事の用語。最後の仕上げ作業で、接着剤がはみ出ていればそれを拭き取り、ミシンの糸端が出ていればそれをカットして、箱詰めするという仕事。ミシン作業などの熟練の必要がない仕事。
店舗名 | アジア食品 グロッサリーズ thank you SHOP |
住所 | 〒653-0042 神戸市長田区二葉町7丁目1-37 |
TEL/FAX | 078-643-1539 |
営業時間・定休日 | [月〜金] 12時から20時 [土・日] 10時から20時 年中無休 |
取材日 | 2023年 |
注)店舗情報、メニューなど、すべて取材日時点の情報です。最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。
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「ベトナム料理レストラン巡り」
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