長田の多様性を育む地域産業

ケミカルシューズ産業

ー ベトナム人編 ー

出典:長田・未来ガイド誌[nannan]特集号
編集/KOBE鉄PROJECT
監修・発行/長田区役所
協力/いきいき部会

長田とベトナム

長田に移り住んだベトナム人にとって、ケミカルシューズ産業はとても重要な産業である。このことは1980年代のはじめ頃に難民としてベトナム人が長田にやって来た頃から今も変わらない。

ケミカルシューズ産業は第二次世界大戦後の物不足の中で誕生し、在日コリアンが中核を担ってきた。ケミカルシューズ産業の特徴は、関連する工場がひとつの地域の中に集まっていること(集積性)と工場と住まいが一体になっていること(職住一体)だと言われている。最近では、工場と住まいを別々にしている経営者の方が多いかもしれないが、ケミカルシューズ工場で働いているベトナム人のほとんどが、工場から自転車で5分くらいの離れたところに住んでいる。自宅と工場の距離がすごく近いことが、ベトナム人がケミカルシューズ工場で働く決めてのひとつだった。

ベトナムの食文化と
ケミカルシューズ産業

理由はいくつか考えられるが、ひとつに食文化の違いがある。ベトナムでは弁当(冷たい米飯)を食べる習慣がないことから昼休憩に自宅へ帰って昼食をとっていたと、ケミカルシューズ工場で働いていたベトナム人女性が教えてくれた。ここに説明を加えると、ベトナムでは「米飯に温かい汁物をかけて食べる」習慣があるので、温かい汁物がない米飯を食べるということに抵抗感を感じる人が多かったのかもしれない。現在は、弁当を持って来ている人もそれなりにいるのではないかと思う。一度、ベトナム人の弁当をそっとのぞいてみたことがある。プラスチック容器にニョクマムで味付けした豚肉や魚をのせた米飯がキチキチに詰められており、容器の横には汁物が入った保温効果のある小さなポットが置かれていた。その人はポットに入っている汁物をスプーンですくっては米飯にかけて、汁物がかかった米飯を口に入れては、おかずを少しかじっていた。

出典:FMわぃわぃ

ベトナム人にとっての「こーば」

一日のほとんどをケミカルシューズ工場で過ごすベトナム人にとって、工場は日本語を習得する場でもあった。長田のベトナム人の話していると、「靴屋」「ゴム屋」「工場(こーば)」「貼工(はりこう。貼り子と言う人もいる)」「吊り込み(つりこみ)」「仕上げ」「ボール巻き」など、ケミカルシューズ産業にまつわる言葉が次々と出てくる。「貼工」はいくつかある作業工程のひとつを指す言葉で器用さが求められることから、他の作業に従事するより工賃が良かった。ケミカルシューズ産業が盛んだった時代、貼工は「花形」と呼ばれていたそうだ。貼工は座って行うが、決して楽な作業ではない。まず、へらを使って接着剤を素早く靴底の側面に塗り、接着剤が塗布された部分に靴本体をくっつけていく。次にくっつけた部分に余計なしわができないように指先に力をいれてしわを伸ばしながら仕上げていく。どっしりと座りながら、へらを持つ手を素早く動かし、指先だけで靴を仕上げていく様子は職人技である。仕上げなどの技術を要しない工程で経験を積んだベトナム人は、貼工に従事するようになっていった。

長田で暮らすベトナム人にとって、こーばは生計を確保する手段を得る場所であり、日本語を習得する場所であり、家族以外の人びとと接する場所であった。こーばの片隅に腰をおろし、貼工として黙々と靴を仕上げ、昼休憩になるとニョクマム味の昼食を口にする。時おり、職場の在日コリアンが自家製キムチをおすそわけしてくれたり、誰かが言った冗談にみんなで笑い合ったりする…長田の多文化共生はケミカルシューズ産業の歴史を抜きにして語ることができないのではないだろうか。【執筆者:野上恵美】

長田のケミカルシューズ産業の
業態用語

「長田の」とするのは靴の製造の中でも長田ならではの工程、呼称があるため特に長田と断っている

❶ ケミカルシューズの工程は
大きく2つに分かれる。

ソウル/靴の底(底材)

靴底裁断、中底裁断、中敷き裁断、ネーム箔押し、コバ(靴底の断面)の塗装、ピース巻き、ヒール巻き、ホットメルト(かかと成型)、他

アッパー/靴の上(甲皮)

アッパーの裏貼り、折り込み、貼り合わせ、リボン付け、ヒモ通し、ハトメ打ち、飾り穴あけ(ポンス)、他。

❷ 裁断場(底材、アッパー材等の素材を靴の部品に裁断する外注工場)

裁断機を使い様々な部品を作り出す行程でこれが始まりの工程。底材の裁断、アッパー材(甲皮)の裁断それぞれにその後の関連行程を含めた内職(後述の❸)が付随することある。ミシン場(靴のアッパー(甲皮)を縫製する外注工場)裁断されたパーツを縫製により組み立てて行く行程。

縫製のための下準備も兼ねる。複雑な行程が必要な場合は別の外注先(後述の❸内職)にて行程を依頼することもある。ここではミシン工と下手間で構成され、下手間は糸切りやイチ切り(靴の周りの縫い目模様の部分)など縫製後の処理作業を担う。

出典:長田・未来ガイド誌[nannan]特集号
編集/KOBE鉄PROJECT

近年は部分縫いといって縫製部位をパーツにわけ、技術を要する行程=専門部位は特化させそれだけを発注する(つまり内職に出す)ことにより、熟練ミシン工でなくても可能にする工夫がなされている。(熟練工が高齢化で減少)

弊害としては専門知識がないことにより間違いの発見が遅れるということも起こりうる。

※写真は熟練ミシン工の女性

出典:長田・未来ガイド誌[nannan]特集号
編集/KOBE鉄PROJECT

❸ 製品(せいひん)

最終的な仕上げ作業、はみ出ている糊や糸の始末、縫い目の不揃いなどの点検、左右サイズをあわせて、詰め物をして紙に包んで箱に詰める。

この部分は技術というより靴の製作工程についての知識が必要となる。

出典:長田・未来ガイド誌[nannan]特集号
編集/KOBE鉄PROJECT

❹ 内職(ないしょく)

靴の製造行程のスキマを埋める形で多岐にわたって存在する外注工程。

手作業だけの小規模事業所から専用の機械(裁断機を含む)を使用した規模の大きいところも存在する。かなり長田ケミカル業界の専用呼称で一般的な呼称ではない。

【執筆者:金千秋】

くつのまち / 神戸長田

出典:FMわぃわぃ

くつの扉(ポルタ・ディ・スカルぺ)

長田区松野通1丁目1 震災からの復興とケミカルシューズ業界の復興を願う碑「ポルタ・ディ・スカルぺ=イタリア語でくつの扉」。復興へ向かって開く扉をイメージして、扉状の金属板の上に靴のレリーフ24個を配置。震災から4年後に、1歩ずつ着実な復興へ向かう願いを込めて設置されました。 

出典:長田・未来ガイド誌[nannan]特集号
編集/KOBE鉄PROJECT

ケミカル戦隊シューファイター
(2014年デビューした地場産業ヒーロー)

*現在は活動を中止しています。

耳がビーサン「ビーサンブルー」
耳がビジネスシューズ「ビジネスレッド」
耳がハイヒール「ヒールイエロー」

【執筆者:金千秋】

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