MyTho(ミトー)
支えてくれる日本人の友人がいてこそのベトナム料理店
このお店のオーナーシェフは、トラン・ティ・マイリンさん。(TRAN THI MY LINH)
彼女はベトナム南部地域、メコン川下流のデルタ地帯(三角州)にある「メコンデルタ」の街、MyTho(ミトー)の出身です。メコン川は中国を源流にラオスやカンボジアと複数の国を跨ぐ国際河川で、18世紀まではカンボジア領だったため、そこで発達した食文化は、他のベトナム各地の都市では見られない特別感があるそうです。そんな自分の故郷に誇りを持つトラン(リン)さんは、故郷の街の名前をそのままお店の名前にしています。
ベトナムではミシンの縫製工場勤務、その腕前はなかなかのものだったようで、その縫製の腕前をもっと生かしたいと、日本に1999年4月技能研修生として広島にやってきました。しかし残念ながらその夢は叶わず、会社での時給は300円、400円というもの、その上朝から晩までミシンから離れられないくらい働く毎日が続き、とても辛い日々だったそうです。そんな時ベトナム語SNSで神戸・長田の靴工場の賃金が高いという書き込みがあり、ぜひ神戸・長田に行きたいと考えるようになったそうです。しかし研修生VISAでは移動の自由がなく、神戸に行きたくても行くことができません。
ところがファイトの塊のようなトラン(リン)さんには幸運の女神が微笑んだようで、神戸在住ベトナム人の友人が神戸に住む中川さんという日本人男性を紹介してくれたそうです。この男性との結婚のため広島から念願の神戸・長田に2002年1月に来ることが叶いました。そして彼女は得意の縫製技術という腕を買われ長田のケミカルシューズ産業の一連の作業の中の*ミシン場で働くこととなりました。もちろん技術の高さに見合った賃金を手にすることができ、働けば働くほど収入は増えていったそうです。
中川さんとの間には男の子が生まれ、地域の日本の小学校・中学校に行くようになり、その後は灘区の高校に入学。子どもの将来も考えミシン場の仕事はやめ2020年8月に3階建ての1階が韓国料理店だった家を購入。1階は新たにベトナムでも多様な民族が混じり合った食文化の街として有名な故郷の名前「MyTho(ミトー)」というベトナム料理店としてオープンしました。
彼女の故郷MyTho独特の料理へのこだわりは強く、米は福島の農家さんから取り寄せ、香菜ラズーで香り付けをして提供します。また長田区・兵庫区では、東南アジアの食材、ヤギやカエルなどが手に入るので本場MyTho(ミトー)料理を提供することができると嬉しそうでした。この店の噂はベトナム人たちの間でもたちまち評判になり、長田だけでなく兵庫区からもたくさんのお客が来るようになりました。しかしお店は静かな住宅街のど真ん中、仕事終わりにやってくるたくさんのベトナム人たちの声がうるさいと音の問題が近所で噴出。
とうとう現在の場所での営業を諦めざるを得ないという事態にまでなりました。しかしトラン(リン)さん、自治会、区役所などの行政関係者が話し合いの上なんとかこのご近所騒音問題も一段落。再び2023年夏から現在の地で店を再開することができました。外国人と近隣住民との間には「音・匂い・ゴミ」という3つの問題がどの時代でもどの地域でも起きています。
それをどんな風に解決したのか?トラン(リン)さんに聞いてみました。すると店の向かいにある2階建ての家を指さしながら答えてくれました。「私を助けてくれたのはお向かいのおじいちゃんとおばあちゃん。ゴミ出す時も一緒にしてくれる。朝会うとにっこり挨拶してくれる。私もベトナム料理持って行く。あの人たちがいると安心する。本当にやさしい。」
もちろんその他に店として2階のパーティルームでのカラオケや宴会はやめることにしたし、店の入り口には手書きの大きなベトナム語と日本語による「騒音防止について、バイクや自転車の駐輪についての注意書き」を貼り出すなどいろんな工夫を凝らしています。これもとても重要なことですね。
一人息子は日本生まれの日本育ち、日本国籍でもあり、教育も日本で受けているので、日本語の読み書きが苦手なお母さんへの相談なしで高校進学、就職先も自分一人で決めてしまっていたそうです。
特に高校卒業後の自衛隊入隊はトラン(リン)さんにとって大きな衝撃でした。それは遠くの任務地へ行ってしまうということだけではなく彼女自身のベトナム戦争の記憶が大きな拒否感に繋がったそうです。それを理解したかどうか、息子は2023年春、自衛隊をやめ長田区の靴の会社に就職するため戻って来ました。ベトナムからやって来て苦労の上に苦労を重ねて手に入れた3階建ての自宅兼ベトナムレストランでの息子と、7年前に再会した幼馴染のベトナム人男性と再婚しての三人暮らし。故郷の自慢料理を提供できるこの家で、もしものことを心配しない仕事に就いてくれた息子と30年ぶりに再会した夫と生きていける今の暮らしに心から感謝しているそうです。
フーティウ
Hủ tiếu
フーティウ・コウ
同じ麺でこちらは汁なしの焼きそば調理になっています。麺の汁をスープとして添えられています。
コムタン定食
Suất ăn Cơm tấm
ベトナムのワンプレート定食。この店では米に香菜ラズーで香り付けがされています。そしてナンプラーで味付けされた豚肉と目玉焼き、春雨・キクラゲ・ネギなどを混ぜ込んだベトナムの茶碗蒸し風卵焼きチャーが添えられます。
そして人参・大根のなます(酢の物)。ワンプレート全体に真っ赤の唐辛子のタレを掛け回していただきます。
ブンチャ
Bún Chả
ブンはベトナムのビーフンです。ブンチャはベトナムサラダ麺という感じでブンの上にたくさんの野菜・香菜・人参・大根のなます(酢の物)と揚げ春巻き、豚肉がのっています。
添えられている少し酸味のある唐辛子の効いたスープに漬けていただきます。
他郷暮らしは「女性」を強くするのでしょうか。
【執筆者:金千秋】
店舗名 | MyTho(ミトー) |
住所 | 〒653-0843 兵庫県神戸市長田区御屋敷通2丁目3-10 |
TEL/FAX | 080-6151-6709 |
営業時間 | 昼11:00〜15:00 夜17:00〜22:00 |
定休日 | 定休日は特になし。ネットで確認してください。 |
https://g.co/kgs/L6dYsxa | |
取材日 | 2023年12月21日 |
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