関西学院大学総合政策学部山中速人研究室4年卒業制作その1


総合政策学部メディア情報学山中速人メディア工房 卒業制作
第一回 担当:中島達哉

■番組のタイトル
『若者の着物離れ』は本当か データから見る着物文化」

■番組のねらい
和服を自分で着用するようになってから、日本における和装文化と「なぜここまで着物が着られなくなったのか」という疑問に対し、安価な洋装が入ってきただけではなく他の要因があるのではないかという仮説に興味を抱いたことが動機である。

番組の目的は、日本の和装の歴史と現在和装文化が面している困難、そして行政や企業の着物へのインセンティブを高める政策を分かり易く簡潔に知って貰おうというのがこの番組の狙いである。背景の説明としては、日本の伝統的な文化の体制は現在非常に保守的であり、「変化」させることに否定的な傾向があり、和装文化もその例に漏れず、新しい顧客や消費者とのギャップから呉服産業は年々売り上げが減少していることは統計からも明らかである。しかしメディアにおいては「若者の○○離れ」というような文句で、あたかも「若者が着ないのが原因」というような姿勢をとっていることに疑いを持ったため、その原因は果たして「若者」なのかを詳しく研究するとともに、従来の着物産業と新しい消費者の間の円滑な関係を築くための工夫が必要であると考えたため、メディアの宣伝文句の正当性を追求しつつ押し売りにならないような着物への興味を引くような番組の制作をしようと考えたのが背景である。また現在の着物文化普及の妨げになっているのは「着物警察」なる「街中で他人の着物に苦言を呈する」人々も一因であると考えているため、公開する番組において補足的に説明する。

■番組の制作過程
情報の収集にあたって、経済産業省内の「和装振興研究会」及び京都府が発表しているデータをソースとして用いた。インターネット上のデータは玉石混交のため、他の文献において裏付けが取れたもののみを使用した。取材の対象者に対してはメールによってコンタクトを取り、番組内で説明した行政、地域の取り組みの例である「京都きものパスポート」の企画運営を行っている「ウーム総合企画事務所」内のきものパスポート事務局の五島様に取材の協力を依頼し、直接のインタビューが難しい京都府の関係者の方へ書面でのコンタクトを仲介していただいた他、ホームページ内のいくつかの画像を使用する上で画像の許可の取り次ぎも行って下さった。京都での新しいスタイルの和装を扱っている企業の一つであるSOUSOUを取材した際には、SOUSOU企画の橋本様から企業の概要の説明とホームページ内で取り扱っている商品の画像を使用する許可をいただいた。取材協力を引き受けてくださった方々にはメールにて番組の企画書草案を送るとともに、画像の著作権がそれぞれの企業に帰属する旨を説明し、コンプライアンスに関わる情報は公開しないことを約束した上でお力添えいただいた。現在は制作の途中のため未遂ではあるが、番組の公開後には直接謝礼にお伺いする所存である。私自身のスケジュールに関しては非常に逼迫した状況であった。当初は「新しい着物文化の創造」をテーマとしての制作を計画していたが得られる情報が少なく、そのための技術がないことから企画倒れとなり、方向転換を行ったのが今年9月であった他、私自身の成績不振のために当初予定していたスケジュールが大幅に崩れたために全体のクオリティを落とすほかなくなってしまった。しかし企画内容の方向転換にあたって、それまで行っていた番組制作のための情報収集やリサーチが無駄になったわけではなく、現在の着物産業の売り上げの減少や着物着用者への調査などのデータは「統計的に着物文化を研究する」というテーマにも十分に活用することができた。和装の歴史については複数の文献を参照してより正確なデータを求めた。番組として発表し、「メディアの謳い文句が本当か」を探るコンセプトである以上、公開する情報に誤りや虚偽があってはいけないと判断したためであり、統計データの考察以外のデータに関しては正確な先行研究のデータを用いることを優先し、深く掘り下げると同時にソースに関しても十分に留意した。

■考察と反省
反省点は多く、9月での企画倒れと方向転換、学業との優先順位がつけられず、取材にあたってのアポイントを取得する時期を逃してしまったことと、取材を予定していた11月に体調を崩し今後の予定が先送りになってしまったことが私の反省点である。データに関しては官公庁の信頼性のあるデータを用いることができたものの、自分自身でのデータ分析は素人の域を出ないものであるため、十分にデータを精査する余裕を持って行うべきであったと反省している。また京都市の観光者数のデータを扱った際には、観光客のインセンティブとなった要因の誤差項となりうる変数(Wi-Fi整備、民泊など)が多く、非常に偏ったデータとなってしまったと考えており、そうした変数の制御の方法やバイアスについても浅学であったと反省している。技術の面においてもフェードアウトの技術を失念しており、音源にノイズが入ってしまったことは最も反省すべき点である。研究全体の考察、意見としては、従来の呉服業界の悪手と、販売方法や価格設定、衣服としての様式が時代の変化に適合されなかったことが大きな要因であると考えたが、文化の担い手としての若者は着物産業復興のファクターとなりうるため、若者が新たに自分と同じ、もしくは下の世代の人々のための文化を創造して後継してゆくこと、実用性の面にも目を向けること重要であると考察した。