今回は奄美で話題になっているさまざまなことをとりあげてみました。
西郷隆盛が徳之島で過ごした屋敷跡に立つ記念碑の前で。小説家・高木敏克氏(写真左)と哲学者・北岡武司氏(同右)
語り/01
毎年12月から3月にかけて盛んとなる黍(サトウキビ)の収穫。収量は去年とくらべて横ばいだったのですが、「糖度」(甘さ)が記録的に低いという結果が出ています。徳之島にある南西糖業によると、去年10月の台風22号の影響などによって、平均甘しゃ糖度は前年同期を下回ったそうです。農作物はつねに天候に影響されます。農業は奄美の基幹産業のひとつなので、黍の出来具合が、島民の大きな話題となるのです。
語り/02
東北大震災が発生して、今年で7年目を迎えます。同じ震災を経験している立場として、いまだ多くの行方不明者がいることに心いためるばかりです。東北各県では、亡くなった方を見たとか、感じたという報告事例がおおく伝わっています。かの地では、生きている人と亡くなった方は、別々の世界ではなく、同一の時空に同居しているのでしょうね。
生者と死者が同居しているといえば、奄美もまた同じ位相にあります。オヤフジたち(先祖)といま生きている人たちと、同じ場所、同じ空間に生きているのです。
こうした奄美の生死観があることを背景としているためでしょうか、南海日日新聞(奄美で発行されている地元紙)の3月4日付け紙面に興味深い内容い記事が掲載されていました。
旧帝国大学の人類学者らが、奄美の風葬墓から人骨265例を研究目的で持ち出していることに対して、フリーライターの原井一郎氏、民族研究などに取り組んでいる大津幸夫氏が、京都大学などに対して、返還を要求する運動を開始すると表明したのです。
この運動は、調査目的で、先祖の遺骨を持ちだされた側からの「語り返し」だと評価したいのです。これは奄美、沖縄ばかりではなく、北海道のアイヌモシリの世界も同一でしょう。研究目的であれ、収奪された側からの「語り返し」だと云えます。
この「語り返し」は、FMわぃわぃの立場とも重なってきます。震災が発生して多くのひとが阪神・淡路について、語り、報道し、分析したりしました。こうした他者語りに対して、語られた側から語り返すことと、この語り返す作業を営々と続けているのが、FMわぃわぃの立ち位置だと思っているのです。
この遺骨返還運動、こんごも注目して行きたいと思います。
語り/03
訃報が続きます。紹介するのは、山下文武氏、越間誠氏、崎田実芳氏の三人です。
1. 山下文武氏/2月14日逝去。郷土史・民俗学研究者。享年92歳。わたしが代表をつとめる図書出版まろうど社から『奄美の刺突(ハズキ)』を上梓されておられます。
奄美の米軍政下(1946-1953)、「奄美博物館」において、奄美の女性の両手の甲に施されていた入れ墨を研究しはじめて、その成果が結実したのが、同著です。版元から云うのはおこがましいのですが、とても貴重な本です。
父と同じ年齢であったこともあって親近感をいだいていました。
2. 越間誠氏/3月2日逝去。享年79歳。写真・映像作家。奄美の日常(働くひと、祈るひと、生きるひと)を、撮りつづけた方です。
撮影の対象であるシマンチュとおなじ目線で対峙しているために、写真の深度が深く、高い評価を得ていました。
詩人の藤井令一氏の詩作とともに上梓した『残照の文化』で、1999年に第22回山之口貘賞を受賞されておられます。また、奄美に関する動画も多く撮影されていて、その文化的価値も高いものです。
去年の〈奄美ふゆ旅〉で藤井令一氏とともに会おうとアポをとったのですが、藤井氏は施設で療養中。越間氏は風邪をひいて外出できないとのことで会えなかったのです。二人とも会えなかったことが、今となっては残念で仕方ありません(または私の中でいま会っておかなければ、との“虫の知らせ”が作動していたのかもしれません)。
3. 崎田実芳氏/運動家。奄美の復帰運動に積極的にかかわる。復帰に関する著作も多い。一度だけ、名瀬でお会いしたことがあります。復帰運動の奄美大島における語り部のひとりでした。
語り/04
「なんかい文芸」という南海日日新聞に掲載されている文芸欄があります。いつもは俳句作品を選んで選評を発表するのですが、今回は短歌グループをひとつ紹介しました。「龍郷短歌会」。40年の歴史を持つ短歌グループですが、会員の高齢化などで、会を解散することになったそうです。そこで15首のなかから、2首を選んで番組で紹介したのです。
大寒にヒカンザクラが開花せん花見行きたし我が町龍郷
徳山恵美子
桜咲く睦月の奄美(しま)の暖かさ行き交う人の会釈のきょらさ
圓イツ子
ひきつづいて俳句を二句紹介しました。
流木の白く横たふ余寒かな
向井エツ子
大海(おおわた)の風にゆだねる浜大根
浜手増美
語り/05
NHK大河ドラマ「西郷どん」が放送を重ね、いよいよ奄美が登場する「島篇」が近づいています。奄美がどう描かれるのか楽しみですね。そして、「島篇」での出演者もあきらかになってきました。その中で、同番組のテーマソングを歌っている里アンナが、愛加那の兄嫁の役として登場することに。うたが上手な女性役です。なにを歌うのでしょうか。まさかカンティメ節ではないし、ヨイスラ節か黒だんど節かなあ。三線は誰が弾くのでしょう。幕末という時代は、三線は男性が弾くことが殆どだったのです。女性が三線を弾き始めたのは、最近のことでしょう。石原久子さんの世代では、自ら三線を弾く女性は少なかったと推察されます。