医療通訳者インタビュー 岩田秀梅さん(中国語通訳者・元看護師 )

神戸市長田区のインターネット放送局「FMわぃわぃ」のラジオ番組「医療通訳ラジオ講座」として
オンエアされたものテキストにしたものです。

このインタビューを音声で聴くには、「医療通訳ラジオ講座」のページをご覧ください。

医療通訳者インタビュー 岩田さん

自身の出産経験から医療通訳の道へ

FACIL

今回のゲストは岩田秀梅さんです。

多言語センターFACILに登録して下さっている中国語の医療通訳者で大変経験が豊富な方です。ご経歴を簡単に紹介しますと、岩田さんはマレーシアでお生まれになってマレーシアで看護師さんの学校をお出になったんですね。

看護師になられて病院でお勤めになっていらっしゃったんですけれども、ご結婚されて、日本に来られて。

日本でお子さんを出産されるにあたって、色々な言葉の面での難しさを感じられて、そ れで医療通訳を志したということなんですけれども、その時にどのような難しさを感じられたんですか?

岩田

医者が日本語しか話せないです。

もちろん病院の中、誰一人日本語以外の言葉ができなかったですね。

診察とかいろいろな時は、医者が自分で手作りの単語帳を使って、指をさして、そのように問診しました。

幸い当時私は知識がありましたので、出産にはあんまり心配がなかったので。

もし医療知識が全然ないとき、どんなに不安に感じてるかと思ってこれは絶対何かの形で通訳の人は要るかなと思いました。

FACIL

岩田さんは看護師でいらっしゃるので、医療の面での知識はお持ちだったけれども、それでもやっぱりお医者さんとか看護師さんとのコミュニケーションにはやっぱりちょっと難しいところがあったということですね。

岩田

そう、難しかったです。

幸い私漢字ができましたけどね。

ある程度意味が分かるところがありましたけれど、全然漢字が分からない方はもう大変だと思います。

FACIL

それで医療通訳が必要だということをご自分で痛感されて、医療通訳をしたいと思われたんですけれども、なかなかその当時はまだ医療通訳を派遣したり手配をするようなシステムがなかったですよね。

そのような状況でどうされたんでしょうか?

岩田

そうですね、全然ないと言えるぐらいですね。

それでちょっと自分の自由時間があった時に調べたりしてたですね。

それでAMDA 国際医療情報センターというところで医療通訳がありましたので、そこで登録して医療通訳をそこからスタートしました。

それから、兵庫県の外国人相談もボランティアで行きました。

FACIL

その当時、依頼される件数は多かったですか?

岩田

そんなこともないですね。

AMDAの方は一応電話で日本語以外の言葉ができる病院を紹介したりするけど、病院の方の診察はあんまりなかったですね。

多分外国人は自分の親戚とか子供に通訳をさせていたと思います。

医師と患者が分かりあうための通訳

FACIL

なるほど。

やはり身近で日本語ができる人に頼るということですね。

それで何とか頑張っているんですけ れども、やはりそれだけでは足りない時がありますね。

それで岩田さんは多言語センターFACIL にも登録して下さって、病院から中国語の医療通訳の依頼が来た時に行ってくださっているんですけれども、中にこういう事例が一つありまして、病院のお医者さんから患者さんへの説明がうまくいかないので、通訳を依頼したいということで、患者さんではなくてお医者さ んからの依頼だったんですよね。

岩田

そうですね、その時患者さんの家族も同伴で来ました。

すごく医療通訳が入ってくるのが反対という形で、通訳という状況では難しかったですね。

その時は私が自分に言い聞かせるのが、医者と患者の為の通訳ですので、家族の為の通訳ではなくて病気とか治療は医者と患者に詳しく知ってもらいたい、というのがまず第一。

だから家族の反対を押し切って通訳を続けました。

FACIL

そうなんですね、このケースでは、中国語しかわからない奥様に日本人のご主人が同行されていて、通訳者の岩田さんが行ってみたら、通訳はいらないんだ、ということだったんですよね。

お医者さんが必要ということで依頼をされたけれども。

岩田

そう多分医者が、患者が病状が良く理解できていないんじゃないかなという判断でそう決めたと思います。

FACIL

ご主人は通訳が要らないと言われたんですけれども、岩田さんからご覧になってその患者さんのケースはやっぱり通訳者が必要だったんですよね。

家族が言葉ができても医療通訳が必要な場合がある

医療通訳者 岩田さん 打ち合わせ風景

岩田

そうですね。

言葉だけは理解できているかもしれませんけど、病気のことについて、治療のことについて、
家族の方も素人ですね。

だから、そういうことも詳しく説明できるように通訳の方も役に立つんですね。この場合は特にそうですよ。

医者がちょっと曖昧な言葉づかいをして、日本人にしたらよく分かるけど、外国人にしたら、医療知識がない方にしたらちょっと誤解される説明のしかたがありましたので、その時は私が医者にもう少しはっきり病状を説明してあげた方がいいじゃないですかという話をしました。

結局医者からの詳しい説明を聞いたら、家族は納得しましたね。

自分がそこまでのことは分かっていなかったっていうのですね。

その場合は医者の判断は間違えていない、医療通訳は必要だったという場面ですね。

いくら家族の方が言葉ができても、絶対必要な時はあります。

FACIL

はい、でもやっぱり呼ばれて行ってみて、ご家族の方から要らないから帰ってくれと言われるとちょっと大変ですよね。

岩田

そう、すごく難しかったですね。

厚かましくというか、通訳するのも必要だったかなあ。その場合は。

FACIL

そういう時でもやっぱり患者さんとお医者さんのコミュニケーションということを考えて、医療通訳者としては頑張って踏みとどまらないといけないという心構えですね。

岩田

そうですね。

誰のための通訳かというのをいつもはっきりしないと。

その場合はもう「帰ります」という ようになってしまいますね。

医師と患者の認識の違いを橋渡しする

FACIL

今のお話の中で、中国の方と日本のお医者さんとの間で、根本的な意識が違うために誤解が生まれやすいというお話をもうちょっとお聞きしたいんですけれども。

岩田

そうですね。

この場合は、患者さんは手術を希望したですね。

家族の方が特に。

手術すれば病気の根源がとれて、完全に治る事ができると信じました。

医者からいうと手術しても意味ないですとその一点張りで説明しました。

手術が意味ないですというのはどういう意味ですかと言うのは伝わらなかったですね。

だからその時は医者がもうちょっとはっきり、なぜ意味ないですかというのを患者に説明してくれませんかという助言を一応しましたけど。

FACIL

お医者さんがおっしゃった「切っても意味がない」というのはお医者さんからしたらどういう意図があったんでしょうか。

岩田

多分その病状は手術しても治りません。

患者の体力を消耗するだけで、手術だけでは治らない病気のレベルまできているので、ほかの治療法を考えた方がいいということですね。

FACIL

ただ患者様の方には医療の知識がないから、悪いところだけ切ったら後はよくなるだろうと思ってらっしゃるんですよね、そこが誤解なんですね?

岩田

そうです。

患者と家族はその病気の深刻さが理解できてなかったので、その誤解が生じましたですね。

もしそれが分かっていたら、やっぱり医者の説明をしっかりと受け入れたはずです。

医療従事者と患者の良好な関係のために考える

FACIL

日本と中国では医療の面でも、常識の面でも文化的なバックグラウンドでも違う面があると思うんですけど、例えば予防接種の通訳でも、患者さんから箱から薬を出して注射器に詰めるところを見せてほしいと言われたそうですね。

岩田

そうですね。

一度私がそういう同行通訳に行きました。

患者が「自分の目の前に薬を出して、その空の箱をもらって帰りたい」と看護師に言ってくださいって、私に伝えました。

私がもしそのまま伝えたら看護師にすごく失礼になると感じて、二度目、三度目の予防
接種も嫌な雰囲気になるんじゃないかなと思って、まず患者になぜそんなことが必要かと聞きましたですね。

いくら自分がその理由が大体分かっていても、患者から直接に聞いてから伝えるというのが基本かな。

そして患者から聞いてすり替えられる可能性があるからって。この予防接種の薬は本当にその薬が使われているかどうか帰って家族の方に調べてもらいたいということです。

そういうことを私、上手というか、失礼にならないように日本語で看護師に伝えました。

そして看護師が納得して、気持ちよくそれをちゃんと患者の前に、その薬を出して、空の箱を患者に持って帰らせたということですね。

FACIL

患者さんはその薬の箱を持って帰ってその薬の名前を調べて、ああ、ちゃんとこの薬だと確かめたいのですね。

患者さんがすり替えを心配されるということは切実な気持なのでしょうか。

岩田

そうですね、たぶんそういうことが、自分の住んだところで薬がすり替えられて、それでお金に換えるという前例があったと聞きました。

無理もないです。

日本では絶対ありえない事でも、ほかの国ではあるかもしれないということも知っておくというかね。

医師から説明を導き出す

FACIL

患者さんと医師の間の誤解の例をもう少し話してください。

岩田

例えば医者からこれは骨粗鬆症ですね、ちゃんと治療しないと骨がボロボロになってしまいます、しまい にちょっと転んだだけでも骨折します、寝たきりになってしまいますよ、と説明があった時の話です。

私たち日本人が骨粗鬆症と聞いたら大体みんなどんなことか分かっています。

そんなに大した恐ろしい病気ではない。

でも直接先生の言った通りに聞いたら大変な病気になりますね。

これは大変でしょう、こんな病院ではだめですよ、大きな病院に行かないとダメでしょう、治療ができないですよ、というように誤解されますね。

これもやっぱり病気の知識が不足しているというかね。

その時は患者さんにこれはどんな病気ですか、治療方法はどうですかと先生に聞いてみましょうかと聞いて、そして「聞いてください」と言ったら、私が医者に骨粗鬆症と言うのはどういう病気ですか、どうい う治療方針があるか患者さんに説明してくれますかということで医者から説明を導くということですね。

FACIL

お医者さんは、まじめに治療に取り組んでほしいという意味で、ちょっと怖いめに言って、日本人でしたら問題はないけれども、中国の方が通訳されて骨が崩れてしまう病気だって聞かされたら、「あ、難病だ」 と思ってしまうかも知れないということですね。

日本と外国の医療制度の違いを踏まえて通訳を

岩田

聞きなれてない病名は特にそうですね。

骨粗鬆症は一つの例ですけれどね、聞きなれない病気はもう大変な病気になると考えがちですね。

小さな病院だったら治療はできない、大きな病院に行きたいという、結構そういう傾向があります。

その場合は、日本には小さくても専門的な病院でちゃんと面倒を見てくれますよということを理解してもらわないといけないですね。

日本の医療制度と外国の医療制度の違いも理解してもらうように、それも大事ですね。

FACIL

これも岩田さんに通訳していただいた例なんですけれども、脊柱管狭窄症という背骨の病気で、病院に長いことかかられてた患者さんの通訳もしていただいたんですけれども、このケースでもやはり患者さんとお医者さんの間にちょっと行き違いがあったということですね。

岩田

その病名を聞いたら、背骨の神経がやられたらもう寝たきりになってしまいます。

その患者は「自分のお母さんが90過ぎまで生きたから、自分もそのぐらい生きなくてはいけませんので、この病気はこの病院では無理です、大きな病院に紹介してほしい」という依頼でしたね。

そうしたら、医者は失礼に感じていました。

私が信用できなかったら好きなところへ行きなさい、紹介はしませんと。

これは大きな病院で手術するほどの病気ではないです、そこまではきてないですので、普通の病院で治療すれば十分ですよと説明してあげて。

患者さんにとってはそれは納得できません、こんな大変な病気は何で手術できないの?この病院の医者はちゃんと説明していなかったんじゃないのかという考えですね。

FACIL

岩田さんが通訳に行かれて、先生にもうちょっと丁寧に説明してあげてくださいとおっしゃったんですよね。

岩田

医者には、患者の国では小さな病院の信用力が小さくて、風邪ぐらいの小さな病気はいいけど、しっかりとした病名が付けられる病気だったら大きな病院じゃないと治療はできないというのがありますのでと、説明しました。

患者にはこの小さな病院でも専門性がちゃんとありますので、もうしばらく医者を信用して治療してみたらどうですか。

どうしてもこの先生が合わなかったら、同じような別の病院に行ったらどうですかと言い ましたけどね。

FACIL

患者さんが大きな病院に行きたがる傾向というのは中国の医療の状況とか文化とかに原因があるということですよね。

例えば、医療知識がないときは、患者さんにどこの出身ですかと聞いてみるということでし たけれども…

医師と患者がお互いに信頼しないと、どんな病気も治らない

岩田

そうですね。

やっぱり大都市みたいな所から来ている方たちはもうちょっと情報が入りますので、病気とかいろんな知識を持っていますね。

ちょっと辺鄙なところに行ったら、情報が入りにくいというか、知識が少ないのでどうしても周りの人の話に惑わされていますので、そういう時はまず先に患者さんにどのあたりから来ているの、とある程度患 者さんの知識レベルを判断できますね。

それが分かっていたら、医者に上手に導いて詳しく噛み砕いて説明してもらうようにもって行きますね。

大都市とかもうちょっと知識がある方はそういう説明はいらないかも知れません。

全然素人の人だったら、本当に小さいことでも詳しく説明しないと納得してもらえません。

医者と患者はまずお互いに信頼しないと、信用してもらわないと、どんな病気も治りません。

FACIL

そうですよね。

信頼しなければならないということなんですけれども、中国の大都市ではなくて、ちょっ
と辺鄙な所から来られている方は、出身地に正規なお医者さんではなくて、伝統的な医療というか正規な 医療者ではない方が診察してらっしゃるという状況があるんですね?

岩田

だからそういうことがあって、薬のすり替えとか、治療してもなかなか治らないか、という状況が出ますね。

FACIL

ですので、信頼ができそうな大きな病院に行きたがる傾向があるということですね。

理解が信頼に、信頼が安心感につながる

FACIL

患者さんと医師の間に信頼関係があるというのはとても大切なことなんですよね。

岩田

はい、そうです。

お互いに信頼するには理解しないといけません。

相手の立場を理解する。

その方はなぜその考え方をするか、なぜそういう説明を求めているかと医者にも分かってもらいたいし、患者には医者がなぜその言い方をするか、そんなことを言うのか分かってもらいたい。

もちろんこの説明は医療通訳者から直接言わないで、上手に患者から導くか、それとも医者からそれを説明してもらうようにそれを訳する。

というのは、あくまでも医者の言うことを訳する、患者の言うことを 訳するのが医療通訳ですね。

ただ何を訳すればいいか。

自分が分かっていてもひょっとして患者さんが理解できていないかも知れない。

顔の表情とかをちゃんと見て、もうちょっと噛み砕いて説明してほしいときは、はっきりと医者にそう求 めるのも医療通訳の仕事じゃないかな。

そのようにできれば、この医者は信頼できますよ、ちゃんと説明してくれるからよく分かりますよと言って、この医者は私の病気をちゃんと治してくれるわという安心感が生まれますね。

医師の説明の内容を理解して分かりやすく

FACIL

医師の説明をそのまま訳すだけではなくて、もっと分かるように、患者さんに理解できるようなところまで、患者さんがどの程度分かっていらっしゃっているのかまず見極めたうえで説明を求めていくということですね。

岩田

その前に医療通訳者がその内容を理解して訳する。

言葉だけを訳すのではなくて、内容を理解して分かりやすく訳するのが医療通訳ですね。

単語と単語の訳ではないですね。

通訳中に分からない単語が出てきたら…

医療通訳者インタビュー 岩田さん

FACIL

岩田さんは看護師の資格をお持ちですので、医療の知識は豊富だと思うんですけれども、医療的な知識がない、例えば語学を勉強してそこから医療通訳者になりたいというような方は、診察室で分からない言葉が出てきて困ってしまうようなこともあると思います。

そういう時に辞書をひいたりとかタブレットなど で検索するという方もいらっしゃるのですけれども、岩田さんはどうお考えになりますか。

岩田

そのことは直接に医師に聞いてもいいと思います。

自分が分からなかったら患者さんも分からないはずです。

患者さんにこれは何か医者にもうちょっと説明してもらいましょうかといって。

もし患者さんが私も分かりませんよと言ったら医師に詳しく、一般の人が誰でも分かるような説明をしてもらうようにして、辞書とかタブレットとか、パソコンの方は家に帰っ て自分の勉強をするときにします。

患者さんからの情報はだいたいは通訳に行く前にある程度分かっています。

その事前勉強、事前準備が大事です。

それを知っておいて、通訳に行くのが前提ですね。

出てきたら、その時分からない言葉はその時タブレットで探すのではなくて、医者から説明を求めるのが一番いい方法ではないでしょうか。

通訳者の勝手な解釈は NG

FACIL

反対に、すごく医療知識のある通訳者が医師から聞いた病名を、自分の持っている知識で患者さんに説明 するというのもいけないということですよね。

お医者さんが言ったことを通訳するのが通訳だと。

岩田

あくまでも、医師の言葉を訳する、患者さんの言葉を訳するということだから、勝手に自分が解釈して訳するのではなくて、上手くそれを医者に説明してもらう、患者さんに話してもらうというのが医療通訳の 一つの手段というかね。

普段の会話もトレーニングに

FACIL

医師にうまく説明してもらうコツなどはあるのでしょうか。

岩田

言葉遣いかな。

失礼にならないようなお願いのしかたですね。

たとえば、「このことは患者さんがちょっと 理解してないみたいですよ、先生もうちょっとやさしく説明してもらえませんか」というような。 私の昔の英語の先生がいつもよく言ったのは「There is always a right way in saying the wrong thing.」

人に聞きづらいことでも言い方によってすっと入ってくるということですね。

人に失礼にならないような 聞き方を習うっていうのも大事ですね。

FACIL

それは普段の会話でも十分に訓練できることですよね。

岩田

そうそう。それは基本ですね。

一般の会話の中に相手に失礼にならない聞き方。

医師も嫌な顔をしないで丁寧に話してくれるんですね。

もちろん医者も忙しいというのが分かっていますけどね。

患者は一生懸命 先生にお願いして、治してもらいたいから、できるだけ時間を割いてほしいということですね。

医師にも気づきをもたらす

FACIL

医師の方も患者さんがこういうことが分からないんだという気づきになりますね。

医師の知識も増えると いうことですね。

岩田

そうです。

医師も、あ、このことも一般の患者さんは分からないの、この患者さんはそんなにいろいろ知りたいか、本当に私にこの病気を治してほしいんだな、とか分かりますね。

医師にとってもいいと思います。

通訳者は医療制度に関する知識も大切

FACIL

岩田さんは他にもいろんなご経験をお持ちで、例えば、兵庫県の相談員をされていた時に受けられた依頼としては会社が雇っている中国の方の通訳の依頼が来たそうですけれども、それはどういうケースだったんですか。

岩田

会社は、患者は国内で治療しないで、中国に帰ってほしいですね。

患者さんにとっては、国に帰ったら死ぬということです。

自分の国はそう簡単に治療できないです。

病院にとってはこの病気は中途半端の治療はできないです。

一旦スタートしたら最後まで治療しなければならないから、自分の病院は対応できないといって、治療するのを拒んでいたんですね。

患者は治療してほしい。

病院は治療したがらない。会社も帰ってほしい。

FACIL

会社が帰ってほしいというのはなぜだったんでしょう。

岩田

おそらく労災には入ってないかもしれませんし、治療費の問題は大きいですね。

治療費の問題になっていますね。

そういうことがあって、なかなか難しい問題ですね。

ソーシャルワーカーまで出てきていろいろ 話して、一日かかりました。

医療通訳は自分の助言はしたらいけないけれど、たまには助言も必要じゃないかなと判断して、病院のソーシャルワーカーに対して、どうしても自分の病院が対応できなかったら、その対応ができる病院を紹介したらどうですか。

探してみたら、その難病は助成金が出て、言葉も外国人に対応できる病院がありまし
て、金銭面の問題が解決して、病院の問題も解決して、患者さんは転院ができて日本で治療を続けることができました。

日本の医療事情も知っておかないといけません。

このような病院があると自分が知っていて、ソーシャルワーカーにこんなものがあるんじゃないですかと言うのではなくて、そういうのを探してみたらどうですか、たぶんあると思いますよといって、ソーシャルワーカーが探して、やっぱりこういうベターな病院があって、上手く収まりましたですね。

FACIL

病気だけではなくて、そういう医療の事情についての知識もある程度必要なんですね。

病院側が気づいていない危険を察知して動く

岩田

そうですね、制度もある程度分からないと難しい場合はあります。

いつもではないけどね。

このようなこともありました。

一般外来で来て、緊急ではないので、だいぶ待たされていました。

その患者は頭の怪我をしていて、すごくいら立っていました。

長い時間待たされたら病状は段々悪くなっていくんじゃないかなと私が思って。

脳の方で怪我があってね。

それで受付の方に言って、患者さんは救急で来ていないですけど、結構怪我が重いです。

そのまま待たされたら、暴れるかもしれませんよ。

じっと座ることもできないのも目に見えますね。

それで救急の扱いで すぐ診てもらいました。

すぐ入院しましたけど、病室は空いていないですね。

一旦帰るように、二日後病室が空くから、その時また来てくださいと言われました。

そうしたら、患者の家族はどっちも仕事をしなければなりませんので、一人で家に置いていたら大変なことになるということを私から看護師に説明してね、もし家に帰って怪我
とか、転んだりでもしたら、病状がもっと深刻になりますね、そんなことになったら家族は絶対病院がすぐ入院させないからこういう結果になったと言うでしょう。

そういうことは嫌でしょうと言って、何とか空いている個室に一時的に入院させました。

FACIL

それはやはり岩田さんの看護師としての経験から、病院にはだいたい空いている病室があるという見当が あったのですね。

はたして病室が空いていて、患者さんはすぐ入院できたということですね。

岩田

そうです。

必ず一つ二つは緊急用に病室が空いているはずというのが頭にちゃんとありましたから、お願いすることができた。

もしわからなくても、もし家に帰って怪我したら大変な事になるという、看護師がそこまで見てなかったですね。

家に帰ってちゃんとみてくれる人がいないという状況が分かっていなかったかもしれません。

もしそれが分かっていたら多分帰せないはずです。

即入院させるはずだと思います。

FACIL

医療通訳者はそういう面でも細かな心配りをして、病院と患者さんの間で情報を伝え合わないといけない。

岩田

そうですね。

医療通訳は病院と患者、医師と患者の間で問題を起こさないようにするのが目的の一つでもありますからね。

その面は色んな問題が発生しますので、それも前もって察知するというのが医療通訳には必要かもしれませんね。

医療はサービス、患者の健康のために力を合わせて

FACIL

いろいろ医療通訳者に必要な資質をうかがうことができました。

病院に行った場合患者さんの立場がとても弱いと思うんですね。

ですから、病室が空いてないというふうに断られたりすると、そうなのかって帰ってしまうと思うんですね。

ここは通訳者が患者さんのためにということで、何とかしてあげようという気持ちになるんですね。

岩田

そうですね。

最終的に医療通訳は患者の健康のために考えることですね。

それから、私個人の考えかもしれませんけど、医療はサービス業ですね。

患者はあくまでもお客さんです。

できるだけ最高のサービスを与えて、お客さんに満足できるようなサービスを与えるというのが基本ですね。

その満足できるというの は患者を健康な体に導くということですね。

FACIL

難しいことがあってもみんなで何かいい方法を考えるんですね。

岩田

そうそう。みんなで力を合わせたら解決できるものですね。

変わる制度…研修も大事

FACIL

そのためには医療制度のこととか、色んな文化の事とかも知っておいたほうがいいということですね。

岩田

そうですね。

役に立つものですね。

でも、医療は常に変わるものですね。

勉強熱心というか、知りたいという気持ちも大事ですね。

制度はいつも変わるものですから。

昔、十年二十年前に知っていたことはそのまま通用するとは限りませんので。

研修とか、そのような制度も大事ですね。

医療通訳のやりがいとは

FACIL

岩田さんはいろいろなご経験をしてこられて、大変なこともあったと思うんですけれども、それでも医療 通訳にやりがいを感じておられるというようなことはありますか。

岩田

医療通訳をして、患者がそのままで自分の病状とかいろいろ伝えることができて、満足した治療ができて、病院で働いている時と一緒ですね。

元気になって患者さんがそのまま外を歩いて帰っていく満足感というかな、心の支えになりますね。

満足した治療ができるというのは何よりのことですね。

FACIL

医療通訳者として活躍していらっしゃる方または、これから医療通訳者を目指したいという方に向けて何かメッセージをお願いしてよろしいでしょうか。

岩田

たくさんの人はあなた達の協力を必要としています、だからあの人たちを見捨てないで頑張ってください。

有很多人需要你的帮忙。希望你们多多学习帮忙他们。

FACIL

中国語通訳者の岩田秀梅さんでした。ありがとうございました。